愛を教えて
リムジンの後部座席に座り、卓巳は会議用の資料に目を通していた。

九時半の予定を、社長の“個人的な事情”で、十時半にずらした会議だ。


「少しもコスト削減になってないな。担当者はこの一ヶ月何をしていたんだ」


眼鏡の奥の瞳をことさら厳しく光らせる。だが、そのわざとらしさが、宗の目には、心ここに有らず、に映った。


「それは担当の者から説明させます。ところで社長、お邸で何があったんですか?」

「なんのことだ?」

「万里子様です。階段から落ちたと言われても。私の目は節穴じゃありませんので」


卓巳は資料を一旦閉じ、宗の疑問に答えるべく口を開いた。


「あの馬鹿者がとんでもないことをしでかしたんだ。メイドに手を出した挙げ句、助けに入った万里子にまで……」

「メイド? いったい誰にそんな真似を」


わずかに力が入った質問を、卓巳は聞き逃さなかった。


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