愛を教えて
「宗、お前の守備範囲が広いのは知っているが、手を広げ過ぎると痛い目を見るぞ」

「考え過ぎです、社長。それで、万里子様はご無事だったんですか?」

「ああ、未遂だ。だが、昨夜は酷く怯えて、寝付いたのは朝方だった」


卓巳はどことなくソワソワしている。


(ばれたのか? いや、メイドに手を出したところで社長が気にするはずは……)


「社長……寝過ごされた理由はそれだけですか?」


何気なく尋ねたつもりだった。

ところが、卓巳の慌てふためいた返答に、宗のほうが面食らってしまう。


「そ、そんなことを聞くんじゃない! 万里子のことは話さないでくれ。私だって我を忘れることも……いや、会議で惚けたらどうするんだ、全く」

「社長……?」


個人秘書である宗は、他の誰より卓巳と一緒にいる時間が長い。独身の男同士であれば、勤務中とはいえ、多少は女性の話題があってもおかしくない。

だがこれまで、ふたりの間にそういった会話は皆無。宗がいくら振っても、その方面になると卓巳は一切応じようとしなかった。


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