愛を教えて
部屋に戻った万里子は急いで洗面所に入り、その塊を見つけた。

すぐに食事の用意を、という雪音に、三十分ほどあとにしてもらったのはこのためだ。

それは、卓巳がシャワールームに向かいつつ言ったひと言がきっかけだった。



『さて、と。シャワーを浴びて仕事の顔に戻してくる。だが、この歳になって風呂場で下着を洗うことになるとは思わなかったよ』


男性機能の仕組みは万里子にはよくわからない。

だが、卓巳はとにかく嬉しそうだ。彼にとって“そのこと”は、回復に向けてよほど喜ばしいことだったのだろう。

そんな卓巳を見ていると、万里子も嬉しくなる。


『待ってください。卓巳さんがそんなこと……』


巨大複合企業の社長である卓巳に、下着を洗うような真似はさせられない。それ以前に、彼は独身ではなく万里子という妻がいるのだ。


『君は気にしなくていいよ。捨てれば済むことなんだが、そんな気分じゃないんだ。メイドには知られたくないしね。さすがに恥ずかしい』



そのときの卓巳は照れたようにはにかんでいた。


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