愛を教えて

(8)扉の向こうの試練

事件から数日が過ぎた。

万里子の傷はほぼ目立たなくなり、食事も部屋ではなく、皐月たちと一緒に食堂で取れるまで回復した。

傷そのものは酷くはなかったのだが、最初に万里子の腫れた顔を見たとき、皐月が倒れそうになったからだ。


皐月の部屋を訪れようと万里子が廊下に出たとき、階段を掃除するメイドたちの声が聞こえた。




「太一郎の奴、あれ以来、一歩も外に出なくて引きこもりですって」

「そりゃあ恥ずかしくて出て来られないでしょう? 全員の前で漏らしちゃったんだから」

「いい気味だわ! 座敷牢にでも放り込んでやればいいのよ!」

「……ないわよ」


“座敷牢”と口にしたのは、メイドの中でおそらく最も太一郎に酷い目に遭わされた、合崎悠里《あいざきゆうり》。


悠里は今から二年前、勤め始めてすぐに太一郎の餌食になった。

両親が借金のために蒸発しており、行く所も帰る場所もなく。結局、尚子から親の残した借金五百万円を清算してもらい、悠里はすべてを忘れることにした。


――所詮金持ちには敵わない。


それが、わずか二十歳の悠里が出した答えである。


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