愛を教えて

(10)家族の食卓

翌朝、食堂で執事の浮島は、表面に何も書かれていない角形二号の茶封筒を卓巳に差し出す。

ちょうど、食後のコーヒーが運ばれてきたときだった。


「旦那様、運転手の竹川から預かっております。昨夜、車内にお忘れになったとか。お間違いございませんか?」


卓巳は無造作に受け取り、中をチラッと確認した。その様子から、大した書類ではないらしい。


「ああ、そうだ。すまなかった。だが、今朝気づいたのか? 怠慢だな」


卓巳は少し不満げに、運転手を責める口ぶりだ。


「いえ、すぐにお届けに上がったそうでございます。しかし、旦那様が奥様とご一緒で、とても声をおかけすることはできなかった、と申しておりました。お心当たりがないようでしたら、注意しておきましょう」


卓巳はコーヒーが気管に入ったのか、咳き込んでいる。
万里子も真っ赤になりうつむいた。

どうやら、そんなふたりの様子に事情を察したらしい。メイド頭の千代子が口を挟んできた。


「まあ、新婚さんですもの。仕方ございませんわ。ご夫婦仲がよろしいのが一番! ねぇ、大奥様」

「そのようですね。やはり万里子さんにお嫁に来ていただいてよかった。この家も、随分風通しがよくなったこと」


皐月は千代子と顔を合わせ、朗らかに笑う。


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