愛を教えて
ふたりは極上の笑顔で視線を絡ませ、放っておくと、ふたりの世界に入ってしまいそうだ。

そのとき、「コホン」と咳払いがひとつ。女主人である皐月の後方に立つ浮島だった。

万里子は笑みを浮かべたまま肩を竦め、卓巳は軽く両手を上げ“わかった”と浮島に伝えた。


改めて、卓巳は皐月に答える。


「手本となれば、簡単に夫婦喧嘩もできませんね」

「浮気もダメですよ。将来、孝司さんが浮気性になったら困りますもの、ね」


万里子はそんな冗談を言い、孝司に笑いかけた。

孝司は初めて、ぎこちなくだが笑顔を返す。


「浮気? なんのことかな? 僕の辞書にそんな文字はないよ」


内心、笑顔の安売りをする万里子に心がざわめく卓巳だ。

彼の辞書には『浮気』の文字が入る余地もないほど、『嫉妬』に関する項目が大量にあった。



そして、珍しい一家団欒の雰囲気に背中を押されたのか、孝司から卓巳に尋ねた。


「でも、僕らはここを出なきゃならないんでしょう? この間の太一郎さんのことで」


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