愛を教えて
その言葉に過剰な反応を見せたのが和子だった。


「何を言うの、孝司さん!? わたくしは先代の娘なのよ。ここにいる権利があります。あなたがそんな心配をしなくても」

「嘘をつくなよ!」


孝司は母の和子に向かって、人前で初めて声を荒げた。

そして、和やかなムードは一転する。


「この家は皐月様のものだろう? 卓巳さんが受け継いだら、僕らは無関係じゃないか。居候は僕らだってメイドたちも言ってるよ。追い出されたら路頭に迷う。可哀相だから、妾の娘なのに置いてもらってるんだって」

「なんて言い方! あなた、お母様に向かって……」


ハラハラして見守る万里子を尻目に、卓巳は極めて冷静だ。


「孝司くん、私に与えてもらえると思うな。欲しいものは自分で掴むんだ。自分で決めて自分の責任において行動しろ。太一郎くんに出て行くよう言ったのは事実だ。事情は君も知っているだろう。だが決めるのは本人だ。君たちがこの家を出て、私の父のようになったとしても、それは君たちの自由だ」


冷たい声と冷たいまなざし。卓巳はまるで「父のように死ね」と言っているようだ。

孝司もそう思ったのだろう。黙って席を立ち、食堂から出て行こうとする。


そんな孝司の背中に、声をかけたのは万里子だった。


「よかったわね、孝司さん」


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