愛を教えて
「僕は、この家にいるべき人間じゃないと、ずっと思ってた」


孝司は卓巳の言葉が俄かに信じられず、呆然と呟く。

そんな孝司に卓巳のかけた言葉は、


「自分の居場所は自分で見つけるしかない。欲しいものは待ってても与えられない。嘆くより、手に入れる努力をしろ。まずは君の母上に詫びて、おばあ様に断ってから食堂を出るんだ。これからは、従兄であり年長者として、君たちの無礼は許さない。覚悟しておくように。静香くん、君も同じだ」


これは卓巳なりに考えたことだった。

万里子が言った“祖父と同じ間違い”を卓巳は繰り返すつもりなどない。


「まあ、怖い。でも、女性には優しいんでしょう? 従兄殿」

「女性しだいだ」


おどけた口調の静香に、卓巳はすげなく言い返した。


孝司は、初めて知る卓巳の真心に感銘を受けたようだ。彼は卓巳に言われたとおり、和子と皐月に頭を下げた。


万里子の笑顔によって、藤原家の人間は確実に変わり始めていた。


――だが、それをよく思わない者もいたのである。




―第6章につづく―


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