愛を教えて
太一郎は淡々と言葉を続ける。


「腹が減ったから、朝メシを食いに来ただけだ」


食堂は水を打ったように静まり返る。

そして、その静寂を破ったのは万里子であった。


「よかったわ。元気になられて。ね、卓巳さん」

「多少元気がないほうが、あらゆる意味で安心かもしれないがな。しかし太一郎くん、この時期にしては随分涼し気な頭だな。いったい、どういった心境の変化か聞かせてもらいたいものだ」


放蕩の限りを尽くした従弟の変わりように、卓巳は憮然とした面持ちで尋ねる。

自分より先に万里子を庇われた悔しさがその顔に浮かんでいた。


だが、太一郎はかき込むように朝食を済ませ、コーヒーを用意しようとした浮島に「いらねぇよ」とひと言投げつけ席を立った。


「太一郎! 席に着くなら食堂のルールは守るんだ! そんな勝手な真似は」

「卓巳さんっ」


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