愛を教えて
こうと決めたらその型にはめようとする。
融通が利かないのは卓巳の悪い点だ。


そんな卓巳の目を見つめ、万里子は首を左右に振る。


太一郎にとって家族や使用人の前に出てくることは、かなりの勇気を要したはずだ。
人は変われるがいきなりは無理である。
そして、その努力を認めてくれる誰かがいなければ、次の勇気は生まれない。

藤原家では特別なことがない限り、昼食と夕食はそれぞれ好きな時間に取る。
可能な限り、全員が揃うように決められているのは朝食の席だけだった。


「太一郎さん、明日の朝もお待ちしていますね」


万里子はそう声をかけた。


「腹が……空いたらな」


ぶっきらぼうに答え、太一郎は食堂から出て行った。



新たな可能性が生まれた。
それは同時に新たな火種ともなり、卓巳と万里子を飲み込んでいくのだった。


< 469 / 927 >

この作品をシェア

pagetop