愛を教えて
皐月は、そのころには自分は……そんな感傷など、ちらとも感じさせない。

そんな女主人の思いを汲み、


「小さなお子様の声が加われば、もっと賑やかになりますわね」


千代子も笑顔で深く同意したのであった。


万里子は少し上を向き、ツリーの天使様を見る振りをして微笑む。

おそらく皐月は自分の身を案じての仕草だと誤解したことだろう。
本当の理由は口にできない万里子だった。


「万里子様、札幌からお電話がありまして。残念ながら、最終便には間に合わないとのことでした」

「卓巳さんから?」

「いえ、秘書の宗様からのお電話です。卓巳様はまだ会議中だとか」


万里子は雪音からの報告を聞き、時計を見上げた。

もうすぐ十時、ひょっとしたら卓巳について行けばよかったのだろうか? 卓巳もそれを望んでいたのかもしれない。

でも、本当に楽しいクリスマスだった。


(これ以上は贅沢よね)


万里子は胸の奥で呟いた。


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