愛を教えて
思わず、万里子の顔にも緊張が走る。


「なんでしょうか?」

「実は、君に話さなければならないことがふたつあるんだ。ひとつは、君のお父上の会社のことだ」


卓巳の言葉に、万里子は驚き、聞き返す声も上ずった。


「あの……父の会社が倒産とか、そういったことですか?」

「いや、そうじゃない。――すまない! 全部、嘘なんだ。資金繰りに困っているということも、会社の経営が傾いてると言った言葉も……君を得たいがためについた嘘だ。申し訳ない」


突然の告白に万里子の頭は真っ白だ。


「それは、じゃあ、卓巳さんの援助がなくても、父の会社は潰れないってこと……ですか?」


万里子の質問に卓巳は大きくうなずき、「本当にすまなかった」――そんな謝罪を繰り返す。


これが一ヶ月前であったならどうなったかはわからない。

だが、今となっては……。

あまりに殊勝な卓巳の態度に、万里子は思わず吹き出してしまう。


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