愛を教えて
「ああ、汚らわしい！　卓巳さんも父親と同じですわね。ふしだらな女の罠に嵌まるなんて。万里子さん、あなたのお父様もなんて恥知らずなの。こんな疵物の娘を堂々と嫁に出すだなんて！」

「いいえ、父は……」


万里子は父の名誉だけでも守ろうと口を開く。

だが、一斉に向けられた侮蔑のまなざしに、万里子は怯んでしまった。


大勢の目が万里子を見ている。
一瞬で彼女の全身が硬直した。衆人環視の中で、ぼろ布のようになった体を晒されている錯覚に陥る。
息を吸うのも苦しい、膝が震え、立っているのも辛くなる。


（助けて……卓巳さん。お願い……助けて）


そう言葉にしたいのに、声にもならないのだ。


卓巳は自分を守ってくれる。

何があってもそばにいてくれる。


万里子は卓巳の愛を信じ、勇気を出して卓巳の腕に縋ろうとした。


だが……。


< 498 / 927 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop