愛を教えて
「ああ、ごめんなさい。そうじゃないの……本当に、もう大丈夫。心配をかけてごめんなさい」

「過去のことは万里子様のせいじゃありません。それに、あの写真が合成なのは誰にでもわかることです。謝る必要なんてないわ! 堂々としていてください。でなきゃ、あれをばら撒いた女が喜ぶだけですよ!」

「ありがとう。本当にありがとう。少し気が緩んで……涙が零れただけなのよ。私は大丈夫だから、心配しないで」


万里子は慌てて涙を拭い、静かに微笑んだ。


雪音の、犯人を特定するかのような言葉は、今の万里子に気づくはずもなく……。



雪音が出て行き、万里子は部屋の中を見回した。そこは何もなかったかのように、綺麗に片付けられている。

パジャマに着替えた万里子はベッドから毛布を一枚抜き取り、そのままラウンジチェアの上に丸まった。

黒い革製の大きめの椅子は、卓巳のお気に入りなのだ。

椅子は万里子の身体を受け止め、小さく軋む。


卓巳と一緒でなければあのベッドは広すぎる。

そして万里子が考えていたのは、最初に交わした契約書のこと。


卓巳が怖くて、万里子は言ってしまった「太一郎さんに抱かれた」と。契約書が有効なら、万里子はこの家を追われるだろう。不貞を犯した妻として。


(きっと、私がいらなくなったのね。彼に、恥を掻かせたから)


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