愛を教えて
「社長、こんな時間、こんな場所に呼び出されるとは思いもしませんでした」

「悪かった。反省してる。君の弁護士資格で出してもらえないか……頼む」


深夜三時、宗が呼び出されたのは神奈川県警高速道路交通警察隊。

そして卓巳が現在いるのは、管轄警察署の留置場だった。



首都高速はアウトバーンではなかった。その証拠に、あっという間に卓巳の運転する車は警察に止められた。

なんと時速七十キロオーバー、免許停止は確実。

それだけではない。卓巳は通常リムジンで移動するため、免許証を持ち歩く習慣がなかった。

それでも、普通の精神状態であれば携行している。だがこの日に限って、彼の上着のポケットに免許証はなかった。

しかし、それだけで留置場にまで入れられることはないはずだ。

管轄警察署まで卓巳が連行されたのは、なんと、警官と口論をしでかしたからだった。そして、警官の手を振り払った時点で、公務執行妨害が追加され……。

卓巳にとって、皮肉な巡り合わせと言うべきか。

彼は人生初の留置場一泊が決定したのである。


「手を払ったぐらいがなんだと言うんだ! 怒ってるときはそれくらいするだろう!?」


卓巳は己の馬鹿さ加減に嫌気が差し、ふてくされて床にごろ寝を決め込む。警察に言った文句は、実は万里子に言いたいひと言だ。 

だが、留置場の冷え冷えとした寒さに、しだいに気持ちも鎮まってくる。そうなると、今度は自分のやったことの愚かさが思い出された。


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