愛を教えて
万里子と香田俊介との仲を疑ったとき、彼女に詫びた言葉だ。


卓巳の震える身体に、今度は脂汗がじっとりと染み出してくる。

誓いの言葉は毒蛇に姿を変え、卓巳の背筋を這い上がり首に巻き付いた。真綿で首を絞めるとはまさにこんな気分であろう。


(ど、どうする? どうすればいいんだ)


二度としないと誓った約束を破ってしまった。万里子は家を出るかもしれない。


それに、子供のこともそうだ。

あんな形で告げるとは。万里子の心を少しでも楽にしてやりたくて、卓巳は嘘をついた。

知らないことにするという、忍との約束まで破ってしまった。


万里子は酷い誤解をしていた。

だから妻に選んだのだ、と。


卓巳は床に座り込んだまま、壁に固定されたベンチを拳で数回叩く。


(あのとき、私は何を言った? 普通の結婚はできない、万里子にそう言ったのか!?)


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