愛を教えて
自分がそうだから、万里子にふさわしいのは自分だと情けない論法をはじき出した。

愚かにもほどがある。

卓巳は頭を抱え込み、額をベンチに押し付けた。鉄製のそれは硬く、氷のように冷たい。表面は錆びてザラザラしていた。


太一郎などどうでもいい、卓巳が一番だと言って欲しかっただけだった。男として役に立たない、無様なことは百も承知している。それでも万里子に選んで欲しかった。


留置場の窓から月明かりが射し込んだ。


愛しさが募り、彼女を初めて抱き締めた、ホテルで過ごした一夜のように。

祖母の反対を知りながら、それでも妻にと望んだ、あの夜のように。


卓巳は大声で警官を呼び、謝罪と反省を申し入れた。

そして、弁護士として宗を呼んだのである。


< 520 / 927 >

この作品をシェア

pagetop