愛を教えて
間もなく夜が明ける。

この邸を立ち去る前に、と万里子は皐月の部屋を訪れた。
ノックもせず、そうっと中に入る。暗がりの中、万里子は真っ直ぐに歩き、皐月の枕元に立った。

そして、小さなケースをベッドサイドの机の上に置く。
中にはエメラルドの婚約指輪が入っていた。


「万里子……さん?」


元々眠りが浅いせいもあるのだろう。かすかな物音に目を開けた皐月は、そこに万里子の姿を見た。


「……おばあ様。起こしてしまって申し訳ありません」

「どうしたのです? それは」


万里子の置いた指輪の箱を見つけ、皐月は声を上げる。


「これはお返しいたします。どうか卓巳さんの妻にふさわしい方にお渡しください」


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