愛を教えて
「何を言うのです!」

「卓巳さんは、戻られませんでした。お許し……いただけなかったようです。卓巳さんは何もご存じありませんでした。すべて私の罪です。卓巳さんを傷つけ恥を掻かせてしまい、本当に申し訳ありません」


万里子はひと言も言い訳せず、皐月に深々と頭を下げた。


皐月はそんな万里子をじっと見つめ、ゆっくりと身体を起こす。
万里子は慌てて手を差し伸べ、皐月の肩にショールを羽織らせた。


「そう……事件のことは本当のことなのね。辛かったでしょうね。可哀相に」


それは穏やかで慈愛に満ちた声であった。
皐月の手は万里子の髪に触れ、そうっと撫でる。次の瞬間、万里子は皐月に縋って泣いていた。
瞳からは堰を切ったように涙が溢れ出てくる。嗚咽だけで言葉にはならない。


「ごめんなさいね。尚子さんたちを止めようかとも思ったのだけど、卓巳さんがいらしたから」

「いえ……いえ」


万里子はこれまで、忍の前では思い切り泣くことができなかった。

なぜなら、忍はすべてが自分の責任だと思っている。母でもあり祖母でもある忍に、あれ以上の悲しみを与えたくなかった。


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