愛を教えて
とりあえず、宗の配慮で卓巳は急病と報告され、仕事は可能な限り重役たちに振り分けられた。

病欠など、社長に就任してから初めてのこと。

報告を聞いた中には、


「明日から新婚旅行じゃないか。一日も待てないなんて、社長も若いなぁ」


完全に誤解する者もいた。だが、宗は敢えて否定しなかった。



絶対権力の先代社長、藤原高徳が亡くなり六年。卓巳が社長として手腕を揮い始めて五年程度である。

八〇年代を頂点に日本経済界で複合企業はことごとく衰退した。ほとんどが業務提携という形に変化していった。

その反面、独占禁止法の改正により、かつて解体された財閥がそれぞれの枠を越えて結集する動きも見られる。


そんな中、卓巳はF総合企画という小回りの利く会社を設立。藤原グループ内の統廃合にも卓巳が陣頭で指揮を取った。

しかし、若い上に実権は祖母の皐月が握っている。

少しでも気を抜けば、卓巳とて外部から攻撃され、追い落とされる危険もあるのだ。


グループ内の結集が弱まれば、当然企業の力は分散される。そうなれば確実に、藤原の名前を持つだけで取締役会にいるような人間は、経営陣から排除されるだろう。

グループ内に及ぼす藤原家の影響力が弱まり、やがて、外部から社長を招くような事態にもなりかねない。


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