愛を教えて
卓巳には知力や商才だけでなく、人並み外れた強靭な肉体と精神力があると、宗は信じていた。
卓巳に最もカリスマ性を感じていたのは彼かもしれない。
無論、それは間違いではなかったのだが。その核となっていたのは、幼少年期に受けた心の傷を隠すための防御壁だった。
卓巳は物心ついたときから懸命に生きてきた。
心も体も弱く、すぐに誰かを頼ろうとする父を助け、母の下でも十五歳から必死で働き家族を支えた。
働きながら大学を出て、ようやく自由になりかけたとき、藤原家に引き戻されたのだ。
本来、自分の手にあるはずのものを取り戻すため――と言いつつ、本心は皐月の頼みを無下に断れなかった。
思えば、誰かのためにと、しゃかりきに働き続けた人生だった。
その張り詰めた糸が、万里子を失った衝撃でふっつりと切れてしまう。
卓巳は勇気を出して、自らの心に刺さった氷の棘を引き抜いた。男としての性を直視し、彼は城から出て戦いに挑んだのだ。だが、卓巳は苛立ちのあまり、ぶり返した嫉妬という刃で、愛する人の心を手にかけてしまった。
ラウンジチェアの上に膝を抱え座り込む。万里子の愛した誇り高き騎士は、今や、道に迷った幼子同然であった。
宗は卓巳が信頼する沖倉修一郎弁護士に説得を頼んだ。卓巳は沖倉を追い出すような真似はしなかったが、その反面、口を開くこともなく……。
宗は最後の手段を選ぶ。
卓巳に最もカリスマ性を感じていたのは彼かもしれない。
無論、それは間違いではなかったのだが。その核となっていたのは、幼少年期に受けた心の傷を隠すための防御壁だった。
卓巳は物心ついたときから懸命に生きてきた。
心も体も弱く、すぐに誰かを頼ろうとする父を助け、母の下でも十五歳から必死で働き家族を支えた。
働きながら大学を出て、ようやく自由になりかけたとき、藤原家に引き戻されたのだ。
本来、自分の手にあるはずのものを取り戻すため――と言いつつ、本心は皐月の頼みを無下に断れなかった。
思えば、誰かのためにと、しゃかりきに働き続けた人生だった。
その張り詰めた糸が、万里子を失った衝撃でふっつりと切れてしまう。
卓巳は勇気を出して、自らの心に刺さった氷の棘を引き抜いた。男としての性を直視し、彼は城から出て戦いに挑んだのだ。だが、卓巳は苛立ちのあまり、ぶり返した嫉妬という刃で、愛する人の心を手にかけてしまった。
ラウンジチェアの上に膝を抱え座り込む。万里子の愛した誇り高き騎士は、今や、道に迷った幼子同然であった。
宗は卓巳が信頼する沖倉修一郎弁護士に説得を頼んだ。卓巳は沖倉を追い出すような真似はしなかったが、その反面、口を開くこともなく……。
宗は最後の手段を選ぶ。