愛を教えて
夕方近くまで公園で時間を潰して、万里子は実家に向かう道を歩いていた。

真っ直ぐ実家に戻る気持ちにはなれず……とはいえ、戻らない訳にはいかない。


この角を曲がれば駐車場の屋根と門が見える。そう思ったとき、見覚えのある黒い車が視界に飛び込んできた。


家の前に停まっているのは、卓巳が普段使用しているベンツのリムジン。


(卓巳さんが迎えにきてくれたんだわ!)


万里子の気持ちは見る間に浮き立った。

小走りに門から玄関までの石畳を駆け抜け、


「卓巳さん!」


勢いをつけてドアを開け、卓巳の名前を呼んだ。


だが、そこにいたのは卓巳ではなく、


「宗さん。どうして……」


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