愛を教えて
万里子は落胆が隠せない。


それだけじゃない。

すぐに、宗が何をしにきたのか不安を覚えた。


彼は知っているのだ、あの事件で万里子が中絶手術を受けた事実を。そのことは太一郎には話さなかった。伝える必要がないと思ったからだ。

そしてこの宗は、万里子が子供の産めない身体であることも知っているのだろうか? 

だが、まさか実家でそんなことを聞ける訳がない。


「万里子! いったいどこに行ってたんだ。本当は何があったんだ? お父さんに話してみなさい」

「お嬢様、ご無事でようございました。こちらの秘書様も何も話してはくださいませんし、万里子お嬢様に万一のことがあったら、と。わたくしは……」


交互に捲し立てられ、万里子は閉口した。

父はただならぬ気配を察したのかもしれない。

忍の場合はおそらく、あの事件が表沙汰になることを心配しているのだろう。


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