愛を教えて

(1)正しいデート

契約書で交わした婚約の日から数日が経った。



「あの……私たちはどこに向かってるんでしょうか?」


それは万里子にとって、ごく自然な疑問。

彼女は今、卓巳の運転する車の助手席に乗っていた。
最初に会ったときと同じBMW。とくに車が好きな訳ではなく、ディーラーに薦められるまま、乗っているのだという。

だが今回の場合、車の性能も好き嫌いも大した問題ではない。

万里子は普段あまり出歩かない。
デートなど全くの未経験だが、そんな彼女にも、今の状況が異常であると理解できた。

車は延々、首都高速○号線と書かれた道路を走り続けている。
ある程度進んでは別の路線に移っているらしく、そのたびに、○の中の数字が変わる。
汐留JCT、江戸橋JCTと書かれたプレートを、何度くぐったのだろう。


「ドライブ……しているんだ」


運転に集中しているせいか、卓巳は仏頂面で答える。


「私はドライブデートの経験はありませんが……首都高は目的を持って使うものでは?」

「目的がデートでは不都合か?」
「い、いえ。不都合じゃありませんけど」


万里子は眼鏡をかけた卓巳の横顔をジッと見つめた。
父以外の男性とふたりきりで車に乗るなんて。万里子にとって、信じられないくらい革新的な出来事だ。


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