愛を教えて
(ほかの方も、こんなデートをしてるのかしら?)


おそらく、東名高速を走り続けていれば、名古屋に着くくらいの時間は運転しているだろう。


「何を見ている?」


卓巳に、少し上ずった声で尋ねられ……。
万里子の返事も、わずかだが震えた声になってしまった。


「いえ……別に……あの、お疲れじゃないかと。慣れない眼鏡をかけて、運転されているんじゃないかと思って」

「次は、運転手を連れて来よう」
 

万里子の気遣いに、卓巳はこの上なく真面目な表情で答える。

一瞬、唖然とする万里子だったが……堪え切れずに吹き出してしまう。

実を言えば、まさか本当にデートをするとは思わなかった。
どう考えても、卓巳は多忙を極める立場。デートとは名ばかりで、先日契約書を取り交わしたオーナーズ・スイートにでも押し込められ、卓巳は顔も見せないのだろう。そう思っていた。

だが万里子自身、そのほうがありがたかった。
男性とは距離を置きたいと思っている万里子のテリトリーに、卓巳は無遠慮なほどズカズカと踏み込んでくる。そんな七歳も年上の男性とふたりきりになるのは、とてつもなく不安だ。
しかし、今日の卓巳の言動に、その不安は霧消してしまった。

数時間も車に乗ったままだ。
普通なら、『喉が渇いただろう。お腹が空いたのではないか』など相手を気遣うものではないだろうか?
気の短い女性なら、怒って帰ってしまうかもしれない。

でも万里子には、肩書きとは違う卓巳の朴訥さが、逆に好ましく思えたのだった。


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