愛を教えて
万里子と同じ歳の雪音に叱られ、卓巳は青くなる


「私は……弱い人間なんだ。万里子に誓った約束を破った。すまない、許してくれ、と何度言ったかわからない。今度もそうだ。きっとまた傷つける。こんな役立たずの愚か者は、彼女の夫にはふさわしくない」


立ち上がりたい。だが、立ち上がれない。

心が折れて、愛する人に抱き締められることすら辛い。万里子の愛に応えられない自分が疎ましい。

卓巳は愛を知り、心につけた氷の鎧を外した。

愛は人を強くする。だが、鉄も打ち方を誤れば、折れるのである。


「そうかもしれませんね。でも、卓巳様のご心配には及びませんよ。あれだけ若くて綺麗な方なんですから、過去など関係ない、妻にしたいと言われる方は太一郎様だけじゃないでしょう。実際にはご夫婦でなかったとおっしゃるなら、卓巳様との短い結婚生活など、すぐにお忘れになりますよ」


< 574 / 927 >

この作品をシェア

pagetop