愛を教えて

「これはいったいどういうことなんだ、卓巳くん！？　一度は戻ってきた万里子が、君の秘書と一緒に行ってしまった。と思ったら、今度は泣きながら帰って来て……。君とはもう終わりだと言っている。まさか、あの怪文書が原因じゃないだろうね？　それなら、とんでもないことだ。万里子は君のことを本当に愛している。不倫なんてあり得んよ。もう一度ちゃんと話を」


千早邸の玄関に立つ、そこにいるのは冷酷な仮面を被ったかつての卓巳だった。


仕立てのよいダークグレーのスーツに身を包み、心の内を悟られまいと眼鏡をかける。


「残念ですが、お義父さん。万里子本人が不貞行為を認めたんです。彼女を呼んでください。話があります」


卓巳は何度も心で繰り返した言葉を、万里子の父、隆太郎に向かって発した。


「たくみ、さん……」


万里子はゆっくりと階段を下りてきた。

目を真っ赤に泣き腫らし、掠れる声で卓巳の名を呼ぶ。

そんな万里子の姿を目にするだけで、卓巳の中に様々な感情が吹き荒れた。


この場で土下座をして詫びれば、きっと万里子なら許してくれるだろう。


（そうして、また傷つけるのか？　また失うのか？　もう耐え切れない）