愛を教えて
卓巳は感情を殺し、声を作った。


「万里子、君は私を裏切ったと告白した。それは看過できない。君とは別れる。条件はひとつだ。今から予定どおり、私と一緒にロンドンに行ってくれ。レセプションパーティで妻として最後の役目を果たして欲しい」


呆然と立ち尽くす万里子の耳元で、卓巳は囁く。


「お父上の耳には入れたくないだろう？　私の秘密は告白済みで取引材料にはならないぞ」


それはまるで、最初に戻ったような脅迫の言葉であった。


万里子の父はまだ、四年前の事件は知らない。断れば、子供の産めないことまで話すと言っているのだ。

万里子の握っている卓巳の秘密は、すでにジョーカーの役目は果たさない。

昨夜の告白は、決して万里子のためではなかったと、宣言したようなものだった。


卓巳はスッと万里子から離れ、


「わかったかな？　他には何も求めない。車で待っている」


それだけ言って背を向ける。


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