愛を教えて
だが、隆太郎には納得がいかない。


「ちょっと待ってくれ! なんだそれは……あまりにも一方的じゃないか。私にはとても信じ難い。そうだろう、万里子。なんとか言いなさい!」


卓巳の言葉は、指輪を外した夜に感じた“愛は初めからどこにもなかった”その思いを後押しするものだ。

万里子は懸命に涙を押しとどめ、卓巳に答えた。


「わかりました……あなたのおっしゃるとおりにします。着替えてきますので、少しだけお時間をください」

「万里子っ! それはどういうことだ。まさか、卓巳くんの言うとおりなのか。お前は、夫がいながら不貞を働いたのか!?」


父の声は怒りのあまり裏返っている。

違うとは言えなかった。

万里子は確かに卓巳にそう言ってしまったのだ。


「私……ごめん、なさい」


謝罪の言葉を呟いた娘に、隆太郎は怒りを覚え、思わず手を振り上げる。

万里子も父に殴られることを覚悟して、とっさに目を閉じた。


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