愛を教えて

(1)すれ違う心

千早邸を出て、正午に成田空港を発った。

ヴァージン・アトランティック航空の直行便で、同日の十五時半、ふたりはヒースロー空港に到着する。日本との時差はマイナス九時間。

機外はかなり寒い。東京の最低気温がロンドンの最高気温といった辺りだろう。


ヒースローからロンドンの中心地までは航空会社のショーファーカーが送り届けてくれる。宿泊先はリッツ・ロンドン。

そこは、万里子が一度は泊まってみたいと卓巳に話したホテルだった。



『お待ち申し上げておりました。ようこそ、ロンドンへ!』


金髪巻き毛の青年が、リッツのロビーに立ち、爽やかな笑顔で迎えてくれた。

彼はジェイク・フォレスター、フジワラ・ロンドン本社の社員だ。卓巳より一歳若い。

リサーチ部門の平社員であった彼を、卓巳が抜擢したのだという。


今回、仕事がハネムーンのついでだったため、卓巳は宗の同行を断った。そして、このジェイクに秘書の代わりを任せた。


『社長は僕を退屈なデスクワークから救ってくれた。命の恩人です!』


無口な卓巳とは対照的で、始終朗らかに喋っている。どうやら、秘書には自分と違ったタイプを選んでいるらしい。


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