愛を教えて
最初の夜、卓巳が戻ってきたのは深夜二時を回っていた。戻るなりシャワーを浴び、ベッドに転がる。


「お帰りなさいませ」


万里子はずっと起きて待っていた。

しかし、卓巳は「ただいま」すら言おうとしない。万里子は諦め、そっとベッドの端に潜り込む。目を閉じ、浮かんでくる涙を必死で拭った。

反対側の端に転がる卓巳が、朝まで眠るフリを続けたことなど、万里子は知るよしもなかった。



『ミセス・フジワラ、女性おひとりでも、歩いて行ける範囲内に観光名所がたくさんございますよ。よろしければ、こちらでガイドも用意させていただきます』


ホテル内で、ひとり過ごしている万里子を見かねたのだろう。コンシェルジュに声をかけられた。

ハネムーンにはあり得ない事態だが、彼らは卓巳の立場を知っている。

あくまで、忙しい夫を健気に待つフジワラの社長夫人に同情したらしい。


万里子はその心遣いを丁重に断り、卓巳の帰りを待ち続け……。


そして、あっという間にレセプションを兼ねたニューイヤーパーティ当日となった。


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