愛を教えて
ここ最近、太一郎がほとんど部屋を空けないことに焦ったのだろう。隙を狙ったつもりが、まさかこの日に限って丸一日以上戻ってこないとは。

数時間の空白ならごまかしようがあるが、太一郎が全く家にいない日に彼のパソコンが利用されたことになる。本格的に調べられたら、ばれるのは時間の問題だ。

しかも、それだけではなかった。


「太一郎に責任を押しつけられると思ったらしいが、残念だったな。知ってるから? つい先日、大掃除があったのを」


宗の声を聞きながら、あずさの顔色は目に見えて悪くなる。


「大掃除? だから……なんなの?」

「太一郎が部屋から出てこないせいで、彼の部屋だけ掃除できなかったそうだよ。あの日ちょうど太一郎が出かけたので、茜ちゃんが慌てて掃除したんだとさ。それが怪文書事件の当日朝のこと」


茜はよほど太一郎の持ち物に触るのが嫌だったようだ。しっかりとゴム手袋をはめて、パソコンはキーボードからマウスまで丁寧に乾拭きしたという。


「さて、奴の部屋のパソコンに何個指紋が残っていたか、君も聞きたいんじゃないかな?」


冷たい木枯らしが、宗の言葉を一層冷ややかなものにしたようだ。あずさは真っ青だった。


「あたしに……どうしろって言うの? クビにするって言うなら、おあいにくさま」

「ああ、辞めるんだってね。会長から聞いたよ。尚子から相当な情報料をもらったらしいな。おまけに、口止め料まで会長に要求したんだって?」


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