愛を教えて
「デジタルって法的には意味がないんでしょう? 証拠にはならないわよね」

「参考程度だろうな」

「でも……人の心を動かすには充分だと思わない?」

「たとえば?」


肩を抱き、宗は親密そうな空気を作り上げ、質問を繰り返す。


「たとえば、どんなことかな?」


あずさは思い出したように含み笑いをして、


「あの若いコック……なんて言ったかしら? きっと、あたしの裸を見ながらイケナイ想像をしてるんでしょうねぇ。あの手の坊やなら、ちょっと背中を押せばすぐに犯罪に走るわ。万里子相手に……ね。あたしなら簡単よ」


キスの効果も出て来たようだ。あずさは興奮気味に語り始める。


「太一郎が万里子を襲ったでしょう? あれも、うまーく駒を配置してやっただけ」

「へぇ、怖いね。どんなふうにやったんだ?」


宗は正面からあずさの瞳をじっと見つめ、尋ねた。

案の定、あずさは面白いようにペラペラと太一郎を嵌めたくだりを話し始める。


「尚子からも、その調子で金を引き出したのか?」

「言ったでしょ。ちょっとした情報料よ」


そんなことを言いながら、あずさは宗の前に立ち、スーツの上着を脱がせ始めた。誘うような上目遣いだ。舌先で唇を舐める仕草は、明らかにキスをねだっていた。


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