愛を教えて
ふと気づけば、すでに年が明けていた。

あずさは誓約書にサインをして、勤務年数相応の退職金を受け取り、藤原邸を出て行った。尚子だけで済ませておけばよかったのだ。欲張って皐月にまで金を要求したため、愚かな結末を迎えた。


「ねえ、なんて言ってここに呼び出したの?」


雪音はベッドにうつ伏せになり、両手の上に顎を乗せ、宗に質問する。

雪音と男女の仲になったのはごく最近のこと。だが、それ以前から雪音の外出に色々と手を貸していた。


「それは……ナイショ」

「まさか、あの女を抱いたの?」

「真冬に裏庭でなんて、無茶言うなよ」


パソコンの指紋だが、実はハッタリだ。

指紋に日付は入っていないし、怪文書送信時の指紋だと証明もできない。実際に指紋の採取はしていなかった。宗は、無駄なことはしない主義である。


「キスまでして告白させるなんて。あれで通用するの、弁護士センセ?」

「俺は秘書として言われた仕事をしただけさ。ま、適当に脅しときゃ、しばらく悪さはしないだろ?」

「万里子様だったら……どうしたかな? こういうやり方はよくないって止めたかもね」


たとえ馬鹿を見ても真正直に生きることには憧れる。だがそれは、あくまで理想だ。


「馬鹿正直に生きてる人間は嫌いじゃない。でも、黙って鍵を貸してくれるお前が、俺は好きだよ」


ロンドンのふたりも雪音の作戦どおりにいくことを願って――。
宗は可愛い恋人に口づけた。


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