愛を教えて

(3)恋の病

ふたりを追い込んだ張本人が藤原家を去ったことも知らず、パーティは始まった。


パーティ会場もリッツ・ロンドン。

ふたりとも一緒にいるときはあまりに辛く、眠ることもままならない。
万里子はまだ昼間に仮眠が取れるが、卓巳にはそれすらも許されず。彼は限界を超えるまで自分を苛め続けた。そして、張り詰めた緊張がパーティ開始直後の卓巳を襲う。

彼はとうとう、過労と睡眠不足で倒れたのだった。



卓巳が目を開けると、そこに万里子がいた。

人前では不審がられぬよう最低限の会話は努めている。だがふたりきりになると、卓巳は万里子に一度も話しかけてはいなかった。


「私を憎んでおられるなら、それでも構いません。でも、これ以上は無理なさらないでください」


卓巳の身体を案じる、思いやりに溢れたまなざしで万里子は見つめていた。

彼の目に点滴の管が映る。そういえば、ここ数日何を食べたのか記憶にない。何を話したのか、どんな仕事をしたのか、何を見て誰と会ったのかすら思い出せなかった。


万里子の視線から逃げるように、卓巳は無言で目を閉じた。


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