愛を教えて

(2)無欲

――女の機嫌を取るなど愚の骨頂だ。


卓巳の持論である。

しかし、テーマパークデートの翌日、卓巳は宗に尋ねた。


『幼い子供がおらず、女子大生が喜ぶデート場所はどこだ?』と。


卓巳から意見を求められ、宗は三秒ほど絶句した。

だが、ボスに忠実なのは彼の長所である。

ひたすら首都高速を走ることをドライブとは言わず、人気のテーマパークに出かけるのは、まるで中高生程度のデートだと伝える。


『季節もよいので、軽井沢で紅葉でもご覧になって来られてはいかがですか? 天気しだいで、テニスやサイクリングに誘われるのもよろしいかと』



平日は万里子の大学に合わせて、そう長い時間は会えない。その日は、婚約してはじめての日曜日だった。

卓巳の車のサイドポケットには“軽井沢観光ガイド”と題されたガイドブックが収まっている。

卓巳は宗の言葉をなぞるように、万里子を軽井沢に誘った。


「嫌です」


万里子は即答する。


< 61 / 927 >

この作品をシェア

pagetop