愛を教えて
「お帰りなさいませ。お疲れ様でした。お身体はもう……」


万里子は精一杯の笑顔で卓巳を迎えたようとしたのだ。

しかし、卓巳のすぐ後ろから、栗色の髪をした典型的な英国美人が部屋に入って来た。名前はジューディス・モーガン、英国出身のモデルだとパーティで紹介されたことを思い出す。


(……どういうことなの?)


『まあ! なんて素敵なお部屋なの。さすがフジワラのオーナーね。この部屋にふさわしい夜を期待していいのかしら?』


ジューディスは万里子を無視し、部屋に入るなり、卓巳の首に手を回して抱きついた。

卓巳も彼女の腰に手を添えている。

そして、卓巳の言った言葉は……。


「万里子、僕は今夜、彼女と過ごしたいと思っている。君は、隣のエキストラルームを使ってくれ」


彼は万里子のほうを見ることもせず、そう命令した。

頭がちゃんと働かない。万里子はひと言もなく、コートとバッグを掴んだ。そして、ふたりの横をすれ違う瞬間、息が止まった。


ジューディスは背伸びをして、そのまま卓巳と唇を重ねた。


まさか、卓巳が他の女性とキスする姿を見ることになるとは。万里子は逃げるように部屋から飛び出した。


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