愛を教えて
ほんの数時間前まで、卓巳はパーティ会場の中央に立っていた。社長と呼ばれる彼と、ここで打ちのめされている彼とは、とても同一人物とは思えない。

仕事中の卓巳がどれほど冷酷でも、万里子はその内側にある少年のような笑顔を知っている。

傷つきやすく繊細で、プライドの高い卓巳。愛を口にしながら、どうして疑うのか。万里子には不思議でならなかった。

だが、嫉妬が理性で動かせる感情ではないことを、万里子は今夜知った。


ジューディスを抱けなかったことで、卓巳はこれほどまでに傷ついている。万里子はそんなふうに誤解した。


そんな卓巳の姿が、万里子は嬉しかった。

彼が、自分以外の女性の胸に口づけられなかったことを喜んでいる。卓巳が他の女性を抱き、幸福な家庭を作って欲しいと口にしながら……心の内では全く逆のことを願っていた。


愛は綺麗なだけではない。


万里子の心にも醜い感情があった。だが、それを受け入れなければ、愛を続けることはできないのだ。


そして、その影があるということは、光も必ずそこにある。


万里子は息を止め、決意を新たに、口を開いた。


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