愛を教えて
「父と母と……三人で最後に行った場所なんです。そのとき、母は妊娠五ヶ月で、とても元気でした」
万里子は懐かしい目をして母の思い出を語る。
まだ四歳だった彼女に、母の死はなかなか理解できなかったようだ。それ以降、万里子の父は動物園にだけは娘を連れて行かなかったという。
「だから……もし叶うなら。あなたがお嫌でなければ」
嫌でなければ、と言われても、子供もいない三十男が喜んで行く場所ではないだろう。
これまで女性から、オーナーズ・スイートに入れて欲しいと懇願されたり、海外視察に連れて行って欲しいとねだられたりすることは何度もあった。
しかし、軽井沢の別荘より都内の動物園がいいと言われたのは、初めての経験だ。
「嫌じゃないさ。動物園だろうが水族館だろうが付き合おう。それでいいな?」
「はい。ありがとうございます!」
その一瞬、豪華なだけで無機質な車内に可憐な花が咲いた。
そんな錯覚に囚われるほど、卓巳の心は動揺し、浮き足立った。さほど遠くもなければ難しくもない、動物園への道のりを迷ってしまうほどに。
万里子は懐かしい目をして母の思い出を語る。
まだ四歳だった彼女に、母の死はなかなか理解できなかったようだ。それ以降、万里子の父は動物園にだけは娘を連れて行かなかったという。
「だから……もし叶うなら。あなたがお嫌でなければ」
嫌でなければ、と言われても、子供もいない三十男が喜んで行く場所ではないだろう。
これまで女性から、オーナーズ・スイートに入れて欲しいと懇願されたり、海外視察に連れて行って欲しいとねだられたりすることは何度もあった。
しかし、軽井沢の別荘より都内の動物園がいいと言われたのは、初めての経験だ。
「嫌じゃないさ。動物園だろうが水族館だろうが付き合おう。それでいいな?」
「はい。ありがとうございます!」
その一瞬、豪華なだけで無機質な車内に可憐な花が咲いた。
そんな錯覚に囚われるほど、卓巳の心は動揺し、浮き足立った。さほど遠くもなければ難しくもない、動物園への道のりを迷ってしまうほどに。