愛を教えて
朝というにはいささか遅い時間。

万里子は、けたたましく鳴るドアベルの音で目を覚ました。


眠ったのは完全に夜が明けたころ。それまでの間、ふたりは片時も離れず愛し合った。卓巳が万里子の領域を侵犯したのはあの一度きりであったが、卓巳はこの上なく幸せそうだった。

そんな卓巳を見るだけで、万里子も嬉しかった。

今も、卓巳は万里子の横でスヤスヤと眠っている。ここしばらく、ろくに眠っていなかったはずだ。できる限り卓巳を眠らせて上げたい。


万里子は床にそっと足を下ろした。思いの外、体の節々が痛む。どうしてこんなにと考え、思い当たった理由に赤面してしまう。

その間もドアベルは鳴りやまない。

万里子は雑念を振り払いつつ、ベッドの周囲を見回した。ちょうど、卓巳の脱ぎ捨てたバスローブが目に留まる。それを羽織り玄関に向かった。


ドア越しに万里子が応対すると、早口の英語が返って来た。どうやら、ロンドン本社の社員らしい。聞いたことのある声だが、怒鳴るように捲し立てられると、とても思い出すどころではない。

とにかく社長を……と言うのが聞き取れ、『もうしばらくお待ちください』とだけ告げて、万里子は卓巳を呼びに戻る。


だが、たった今までベッドの中で眠っていた卓巳がいない。

どこに行ったのだろうと思った直後、ウォッシュルームのドアが開く。視線を向けると、そこに卓巳がいた。


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