愛を教えて
その瞬間、初めての経験に万里子は力一杯卓巳に抱きついた。それも、卓巳の肩口に爪痕が残るほど。

とてもひとりでは立っていられず、荒い息で卓巳にもたれかかった。


そんな彼女の髪を撫でながら、卓巳はからかうように口にする。


「イクのは初めてだろう? どんな気分だい?」


万里子の頭の中は一瞬で真っ白になった。

卓巳の前で、しかも指で、なんて。万里子は恥ずかしくて身の置き場がない。

でも、膝が震えてひとりで立つことができない。身体のあちこちに、ゾクゾクするような余韻が残っていた。


そんな万里子を卓巳は愛しそうに見つめて、軽いキスを繰り返した。


「可愛かったよ、万里子。そんなに恥ずかしがらないでくれ。僕のときはいつも見ているだろう? これでおあいこだ」


卓巳のあまりに明るい口調に万里子は戸惑っていた。

なぜなら、ふたりは帰国後に離婚が決まっている。もちろん、万里子は別れたくない。でも卓巳はどう考えているのだろう?


「こんな……こんなふうにされたら……私、離れたくなくなる」

「ごめんごめん、やり過ぎたかな? もっとそばにいたいけど」 

「違うの。そうじゃなくて……私ずっとあなたと」 


そのとき、卓巳の携帯が鳴った。


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