愛を教えて

(9)困惑のティータイム

午後三時を回ったころ、グリーンパーク・スイートの電話が鳴る。フロントからで、来客を告げるものだった。

相手はなんと、スティーブン・ライカー。


万里子は卓巳に言われたとおり、


『本日は気分がすぐれないので、どなたとも会いません。恐れ入りますが、お引き取りくださいと、伝えてください』


フロントに伝言を頼んだのだった。



一時間後、ドアベルの音が室内に響き渡る。

来客の予定などない。卓巳なら鍵を開けて入ってくるはずだ。不思議に思いつつ応対すると、ドアの外から支配人の声が返って来た。


『お身体の具合が悪いと伺いました。往診を願われたとのことで、お医者様がお越しになっております』


万里子にはまるで心当たりがない。

第一、外部から往診など頼まなくとも、リッツにはホテルドクターが常駐している。


『それは、何かの間違いだと思います。私は往診など頼んでいません』


万里子はドアを閉じたまま診察を拒否した。


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