愛を教えて
『マリコ、君はタクミのどこに惹かれたのかな?』

『サー! 契約の話と個人的な話を一緒にしようとなさらないでください。全く関係のないことです!』

『大いにある! 私はタクミ以上のものを君に与えられる。君が望めばどんなものでも。――マリコ、正直に言おう。私は君に恋をした。君が欲しい。タクミと別れて、この国に残り私の恋人になって欲しい』


開いた口が塞がらないとはこのことだろう。万里子は声も出ない。そのことをライカーはどう思ったのか、更に言葉を続ける。


『ただふたつだけ、君に上げられないものがある。それは妻の座と子供だ。私たち夫婦は公式の席以外ではほとんど会わない。住んでいる邸も別だ。だが離婚はできない。このふたつ以外なら、私は持てるすべてを君に捧げよう』


ライカーにとってそれは、なんでもないことのようだ。

万里子を愛人にすると宣言しつつ、彼女の美しさを賛美し、宝石もドレスも好きなだけ買い与えると高らかに言う。

万里子はその自分勝手な演説を聴き、呆気に取られていた。

すぐ後ろに人が立ったことも気づかないくらいに。


――カツン。


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