愛を教えて
『私も彼女に聞いているんだ。マリコ、私は君に鎖はつけない。君はもっと自由に広い世界を知るべきだ。どんな女性にも、自分の本当の価値を知る権利がある』
ライカーが一歩踏み出し、万里子の手を取った瞬間、卓巳は奪い返した。そのまま、万里子を自分の腕の中に引き寄せる。
『万里子は私の妻だ! サー、私は妻を英国貴族の愛人に売りに来た訳ではない。商談はおしまいだ。お引き取り願おう』
卓巳は比較的大きめの声でそう宣言した。
周囲のテーブル客たちも視線を向け始める。ブラックタイで正装した給仕も、トレイを抱えたまま通路で立ち往生していた。この由緒あるリッツのパーム・コートで、滅多に遭遇しないトラブルだろう。
『いいのかい? 認可が下りなければ開発計画は頓挫する。君からご破算にすれば、フォークナーから莫大な違約金が請求されるはずだ。フジワラは英国から撤退を余儀なくされ、タクミは会社に多大な損害を与えた“無能な経営者”と呼ばれる』
『いい加減にしてください!』
万里子は卓巳から離れ、ひとりで立つとライカーに向かって言い放った。
『サー、あなたは誤解しています。私はあなたがおっしゃるような女性ではありません。それに、私は藤原卓巳の妻ですが、誰かの所有物ではありません。あなたの言い方は不愉快です。――失礼します』
万里子は日本風に頭を下げる。そして卓巳の腕を取り、エレベーターに向かって歩き出した。
ライカーが一歩踏み出し、万里子の手を取った瞬間、卓巳は奪い返した。そのまま、万里子を自分の腕の中に引き寄せる。
『万里子は私の妻だ! サー、私は妻を英国貴族の愛人に売りに来た訳ではない。商談はおしまいだ。お引き取り願おう』
卓巳は比較的大きめの声でそう宣言した。
周囲のテーブル客たちも視線を向け始める。ブラックタイで正装した給仕も、トレイを抱えたまま通路で立ち往生していた。この由緒あるリッツのパーム・コートで、滅多に遭遇しないトラブルだろう。
『いいのかい? 認可が下りなければ開発計画は頓挫する。君からご破算にすれば、フォークナーから莫大な違約金が請求されるはずだ。フジワラは英国から撤退を余儀なくされ、タクミは会社に多大な損害を与えた“無能な経営者”と呼ばれる』
『いい加減にしてください!』
万里子は卓巳から離れ、ひとりで立つとライカーに向かって言い放った。
『サー、あなたは誤解しています。私はあなたがおっしゃるような女性ではありません。それに、私は藤原卓巳の妻ですが、誰かの所有物ではありません。あなたの言い方は不愉快です。――失礼します』
万里子は日本風に頭を下げる。そして卓巳の腕を取り、エレベーターに向かって歩き出した。