愛を教えて
その、わずか二十分後、ホテルのスタッフが次々とスイートを訪れた。

初めに届けられたのは、三百本の赤い薔薇の花束。

カードには『スティーブン・ライカー』の名前がある。さすがにひと束にはできなかったのか、三つに分けられ三人のスタッフによって運び込まれた。

唖然とする万里子の耳に、再びドアベルが鳴り響く。


そして、目の前に置かれた大きな箱には、シルクのドレスが納まっていた。

どう見ても既製品には思えない。仕立てさせたのだとしたら、いつの間に? それも数回会っただけのライカーにどうしてサイズがわかるのだろう? そんな疑問ばかりが膨らむ。

ドレスは真紅の薔薇と同じ色だ。

胸元からウエスト、ヒップまで体の線がくっきりと浮き出るようなマーメイドライン。下着をつけられないデザインだった。


戸惑う万里子を無視して、贈りものは続く。


ドレスと共布で作られたピンヒールのパーティシューズ、ヘッドドレス、同色のガーターベルトやシルクのストッキングまで。

更には、それぞれ一カラットはありそうなダイヤモンドのイヤリングとネックレスまでもが届けられた。


シッティングルームはむせ返るような甘ったるい薔薇の香りと、目の覚めるような赤い色に覆い尽くされている。


滅多に覚えない怒りと動揺に、万里子は部屋の中央に棒立ちだった。


その直後、卓巳以外は女王陛下であっても取り次がれないはずの電話が鳴る。

万里子は恐る恐る受話器を上げた。


『素敵な夜だね、マリコ。プレゼントは気に入ってくれたかな?』


< 666 / 927 >

この作品をシェア

pagetop