愛を教えて
予想どおり、ライカーだった。

万里子の心臓はスピードを上げ鼓動を刻む。まずはフロント係が客の了解を得てから繋ぐはずなのに、どうしてそれが……万里子はハッとする。


スイートの電話は部屋の内装に合わせてアンティークなデザインだ。だが、その機能は最新式でインターネットにも接続可能だった。その電話機のサイドにつけられたランプが点灯して、この通話が内線であることを告げている。


『明日の夜、新年のパーティを開くことになった。場所はリッチモンドだ。ぜひ出席して欲しい』

『それは……私ひとりでは決められません』

『タクミは忙しいだろう。君ひとりでも恥を掻かせるようなことはしない。安心したまえ』

『既婚の私が公式の場に、夫以外の男性と出ることはありません』

『非公式のパーティだ。エスコートは夫以外でも構わない』


ライカーがなぜここまで自分にこだわるのか、さっぱりわからない。

だが、万里子の沈黙に頑なまでの拒絶を感じ取ったのだろう。ライカーは妥協案を示してきた。


『いいだろう。では、タクミにも一緒に出てもらおう。君は私の贈ったドレスを着て出席する。タクミがOKすれば、君もOKしてくれるね?』

『はい。彼が了解するのであれば』


万里子は渋々了承する。

だが、次にライカーの言った台詞に彼女は背筋が凍りついた。


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