愛を教えて
無意識のうちに、万里子は卓巳の肘辺りを握り締めていた。

それに気づいた卓巳は、万里子の手を上から包み込む。


『タクミ、うちの責任者が別室で話し合いたいと言っている。フォークナーの人間も待っている。行って来たまえ。マリコのエスコートなら心配はいらない。私が代わりに引き受けよう。――よい話になることを期待している』


ライカーは白々しくもそんな言葉を口にした。そして、ごく自然な動作で万里子の手を取ろうとする。

だが、それを当然のように払い除けたのは卓巳だ。


『サー、私はあなたと話し合うためにここまで来たはずだ』

『言ってなかったかな？　私は今回の件を責任者に一任している。私が同席すれば、彼は面目を失うだろう』


卓巳は無表情のままその場に立ち尽くす。

そのとき、今度は万里子がそっと卓巳の手に触れた。ふたりは数秒間見つめ合い、そして万里子は無言でうなずいた。

卓巳はため息を吐きつつ、案内に従おうとする。

それでも、万里子から離れるときは執拗なほど念を押した。


『万里子は私の妻だ。それをお忘れなきよう』


ライカーは降参のように軽く両手を挙げ、首を横に振るのだった。


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