愛を教えて
『素晴らしい。思ったとおり、君は抜群のスタイルだ。これほど艶やかな肌の持ち主を私は知らない。君の肌は特別だ。そんな素晴らしいものを隠してしまうなんて勿体ないよ。見てごらん、男たちはみんな、君を見つめている』


ライカーは万里子を絶賛した。


確かに、今夜の万里子はこれまでとは全く違う。

ドレスに合わせた濃い目の化粧。チークやマスカラは成人式と結婚式に使って以来だ。そして、初めてひいた真紅の口紅はシャンデリアの光に照らされ、ベルベットの光沢を放っていた。

極めつけは、緩く纏め上げたシニョンから零れる数本の後れ毛だろう。象牙色の肌に絡みつく黒い髪は、それがシーツの上で乱れる様を想像させてしまう。


だが、万里子自身は、鏡どころか窓ガラスに映る自分の姿すら見たくなかった。

肩や背中に冷たい風がダイレクトに当たる。複数の男たちの不躾な視線に、露わになった肌が切り刻まれる気分だ。


万里子は仕方なしにライカーの手を取った。だが、彼の賛辞にはひと言も答えず、唇を引き結ぶ。


『ドイツ・シェパードのようにタクミが睨んでいなければ、誰もが君をダンスに誘っただろう。だが、一番は私だ。レディ・マリコ、私と踊っていただけますか?』


懲りずにライカーは誘惑を続ける。

わざとらしく、レディの称号までつけて。

真上から降り注がれるライカーの視線を、大きく開いた胸元に感じて、万里子は奥歯を噛み締めた。


『サー・スティーブン。残念ですが、私は踊れません』


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