愛を教えて
ハッとして万里子は目を覚ます。

どうやら、考え込むうちにうたた寝をしてしまったようだ。見晴らしのよい窓からは、西日の射し込む時間になっていた。


「…………」


リビングのほうから人の話し声が聞こえる。

卓巳の仕事が終わって迎えに来てくれたのかもしれない。万里子は起き上がると手早く身なりを整え、リビングに向かった。



「……ええ、そう、今日よ。今日中じゃないとダメ! そう、三十分したら行くから、ちゃんと準備しておきなさい。いいわねっ!」


リビングではひとりの女性が携帯に向かって怒鳴っている。イライラした様子で床を踏みしめ、きつい命令口調だ。

なぜかわからないが、二十代半ばの女性が部屋に居た。

ブランド品に疎い万里子にもわかるような高級品で身を固め、濃い化粧ときつい香水……派手な感じの美人だった。


その直後、彼女は万里子の存在に気づいた。


「ちょっと、あなた誰!? どうして、ここにいるの! ここはうちのリザーブルームよ。勝手に入っていいと思ってるのっ!?」


女性が口走った、『うちの』という言葉に、万里子は彼女が藤原家の人間であることを知る。


「いえ、あの、藤原さんに、ここで待つように言われまして。ご気分を害されたら申し訳ありません」


万里子はそう言って頭を下げた。


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