愛を教えて

(1)裏切り

「はい……あ、いえ。誰も来てませんし、連絡もありません。ええ、気をつけます。卓巳さんも無理なさらないで」


万里子は静かに受話器を下ろす。その横には本日発売のタブロイド紙があり、ジューディスの顔が一面に大きく報じられていた。


卓巳がホテルの部屋を離れて丸二日が過ぎた。

今日はもうロンドン滞在十一日目。卓巳のガードは相変わらず厳しく、ライカーからのアプローチはカード一枚、万里子には届かないよう手配されている。

そのため、日本からの様子を尋ねる電話も万里子には繋がれず……。

万里子自身もあんな形で飛び出して来た藤原家や実家に、連絡を入れ辛くなっていた。



リッチモンドから戻った翌朝、英国大衆紙ザ・サンに、日本から来た実業家の情事が掲載された。

万里子の卓巳への不信感を持たせるために、ライカーが企んだスキャンダルだ。しかし、結果的には不発に終わる。

記事は厳格で仕事熱心な卓巳のイメージを損ねるものには違いない。万里子も目にしたときは不快に感じたが、ライカーは大きな失敗をしたのだ。


まず、卓巳とジューディスの関係を一夜だけのものにしなかったのが、最大のミスだった。

確かに、事業計画が持ち上がった一昨年から、卓巳は頻繁に英国ならびにEU各国を訪れている。そのため、ジューディスとの関係はその都度、複数回に渡るものと彼女は告白していた。


< 700 / 927 >

この作品をシェア

pagetop